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外見 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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銀白色![]() | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
一般特性 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
名称, 記号, 番号 | イットリウム, Y, 39 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | 遷移金属 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
族, 周期, ブロック | 3, 5, d | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
原子量 | 88.90585 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
電子配置 | [Kr] 4d1 5s2 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
電子殻 | 2, 8, 18, 9, 2(画像) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
物理特性 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
密度(室温付近) | 4.472 g/cm3 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
融点での液体密度 | 4.24 g/cm3 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
融点 | 1799 K, 1526 °C, 2779 °F | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
沸点 | 3609 K, 3336 °C, 6037 °F | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
融解熱 | 11.42 kJ/mol | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
蒸発熱 | 365 kJ/mol | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
熱容量 | (25 °C) 26.53 J/(mol·K) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
蒸気圧 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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原子特性 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
酸化数 | 3, 2, 1(弱塩基性酸化物) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
電気陰性度 | 1.22(ポーリングの値) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
イオン化エネルギー | 第1: 600 kJ/mol | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
第2: 1180 kJ/mol | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
第3: 1980 kJ/mol | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
原子半径 | 180 pm | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
共有結合半径 | 190±7 pm | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
その他 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
結晶構造 | 六方晶系 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
磁性 | 常磁性[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
電気抵抗率 | (r.t.) (α, poly) 596 nΩ·m | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
熱伝導率 | (300 K) 17.2 W/(m·K) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
熱膨張率 | (r.t.) (α, poly) 10.6 µm/(m·K) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
音の伝わる速さ (微細ロッド) |
(20 °C) 3300 m/s | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ヤング率 | 63.5 GPa | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
剛性率 | 25.6 GPa | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
体積弾性率 | 41.2 GPa | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ポアソン比 | 0.243 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ブリネル硬度 | 589 MPa | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
CAS登録番号 | 7440-65-5 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
主な同位体 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
詳細はイットリウムの同位体を参照 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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イットリウム (英: yttrium) は原子番号39の元素で、元素記号は Y である。銀光沢のある遷移金属であり、ランタノイドと化学的性質が似ているので、慣例で希土類元素に分類されている[2]。他のランタノイドと同じく希土類鉱物中に存在し、天然に単体としては存在しない。唯一の安定同位体 89Y のみ天然に存在する。
1787年にカール・アクセル・アレニウス(英語版)がスウェーデンのイッテルビーの近くで未知の鉱物を発見し、町名に因んで「イッテルバイト」と名づけた[3]。ヨハン・ガドリンはアレニウスの見つけた鉱物からイットリウムの酸化物を発見し、アンデルス・エーケベリはそれをイットリアと名づけた。単体のイットリウムは1828年にフリードリヒ・ヴェーラーにより初めて単離された[4]。イットリウムの最も重要な応用先は蛍光体であり、その赤色蛍光体はテレビのブラウン管ディスプレイやLEDに用いられている[5]。ほかには電極、電解質、電気フィルタ、レーザー、超伝導体などに応用され、医療技術にも応用されている。イットリウムは生理活性物質ではないが、人間がイットリウム化合物にさらされると肺を患う可能性がある[6]。
イットリウムは軟らかく、銀白色の光沢を持つ第3族遷移金属である。周期律から予想されるとおり、同じ第3族で第4周期のスカンジウムより電気陰性度が小さく、第6周期のランタンよりも電気陰性度が大きい。また、周期表で隣のジルコニウムよりも電気陰性度が小さい[7][8]。イットリウムは第5周期でもっとも原子番号の若いdブロック元素である。
純粋な単体は空気中で比較的安定だが、これは酸化イットリウム(III) (Y2O3) の膜が金属表面を覆って不動態化するためである。水蒸気中で750 °C付近まで加熱すると、この膜は厚さ10 µmにまで達することがある[9]。細かい状態のものは空気に対して不安定となり、削り状のイットリウムは400 °C以上で自然発火することがある。窒素雰囲気下で単体を1,000 °Cに加熱すると窒化イットリウム (YN) が生成する[9]。
イットリウムとランタノイド元素はとてもよく似ており、歴史的に希土類元素として同じグループに分類されている[2]。天然では、これらは常に希土類鉱物(英語版)中にともに見出される[10]。
イットリウムは、スカンジウムなどの周期表で近くにある元素よりも、ランタノイドに性質が似ている[11]。もし物理的性質だけに着目すれば、イットリウムの原子番号は64.5–67.5に相当する。この値はランタノイドのガドリニウムとエルビウムの中間である[12]。しかし、イットリウムの密度が4.47であるのに対してランタノイドではルテシウムが9.84、ジスプロシウムが8.56であるように、イットリウムは他のランタノイドと比較して低密度な金属であり、物理的性質においては必ずしも類似しているというわけではない[13]。
また反応次数もほぼ同じであり[9]、テルビウムやジスプロシウムと化学反応性が似ている[5]。原子半径 (180 pm) やイオン半径 (88 pm) もランタノイドに類似しており、溶液中においてまるで重希土類のようにふるまうため、重希土類のイオンは「イットリウム族」と呼ばれることもある[9][14]。原子半径の類似性はランタノイド収縮で説明される[15]。
このようにイットリウムとランタノイドは非常に類似した化学的性質を有しているが、相違点としては、イットリウムはもっぱら+3の原子価しか取らないのに対し、ランタノイドのおよそ半数は+3価以外の原子価も取ることが挙げられる[9]。
+3価の遷移金属として、イットリウムはさまざまな無機化合物を形成し、通常3つの価電子を全て結合に使うため、酸化数は+3である[16]。酸化イットリウム(III) (Y2O3) が代表的な化合物であり、これは配位数6の白色固体である[17]。
フッ化物、水素化物、シュウ酸塩は水に溶けないが、臭化物、塩化物、ヨウ化物、窒化物、硫化物はすべて水に溶ける[9]。Y3+ イオンはd軌道とf軌道が空なため、その溶液は無色である[9]。
イットリウムやその化合物は水と容易に反応して Y2O3 を生成する[10]。濃硝酸やフッ化水素酸との反応性は高くないが、その他の強酸とは容易に反応する[9]。
単体はおよそ200 °C以上でハロゲンと反応してフッ化イットリウム(III) YF3、塩化イットリウム(III) YCl3、臭化イットリウム(III) YBr3 などのハロゲン化物を作る[6]。同様に、高温で炭素、リン、セレン、ケイ素、硫黄などと反応し、二元化合物を作る[9]。
炭素-イットリウム結合を持つ化合物を有機イットリウム化合物(英語版)という。これらの化合物の中には、酸化数0のイットリウムを含むものがある[18][19][注 1]。有機イットリウム化合物を触媒として用いるものとして、数例の三量体化反応が知られている[19]。それらの有機イットリウム化合物触媒の調製には、Y2O3 と濃塩酸および塩化アンモニウムから得られる YCl3 が出発物質として用られる[22][23]。
ハプト数とは、隣接する配位子がどのように中心原子へ結合しているかを表すもので、ギリシャ文字のイータ η で表される。カルボランが d0 金属原子にハプト数 η7 で配位している錯体として、最初に発見されたのはイットリウムの錯体であった[19]。炭素インターカレーション化合物(英語版)であるグラファイト-Yやグラファイト-Y2O3 を気化することにより、[email protected]82 のような球状の炭素の檻の中にイットリウム原子を内包した原子内包フラーレン(英語版)が生成する[5]。電子スピン共鳴による研究で、Y3+ と (C82)3- のイオン対の生成が示されている[5]。また、Y3C、Y2C、YC2 などの炭化物を水素化することで炭化水素が得られる[9]。
太陽系内のイットリウムは恒星内元素合成により作られたもので、その約72 %がs過程、約28 %がr過程によるものとされている[24]。s過程は脈動する赤色巨星の内部で起こる、数千年の時間をかけて進むゆっくりとしたものである[25]。r過程は超新星爆発に伴って起こる速い反応である。いずれも軽い元素の中性子捕獲によって原子番号の増加が起こる。
イットリウムの同位体はウラン核分裂反応の主要な生成物である。核廃棄物管理の観点で最も重要なイットリウム同位体は 91Y、90Y であり、それぞれの半減期は58.1日、64時間である[26]。前者は核分裂により直接生成するが、後者は短い半減期を持ちながら、親核種のストロンチウム90 (90
38Sr) の半減期が29年と長いため永続平衡(英語版)状態になる。
第3族元素は全て奇数個の陽子を持つため安定同位体が少ない[7]。安定同位体を1個のみ持つスカンジウムと同様に、イットリウムでは天然に存在する 89Y のみが唯一の安定同位体である。一方、原子番号が偶数の希土類元素は多くの安定同位体を持つ。他の過程で生成した同位体が電子放出(中性子 → 陽子)で崩壊するための十分な時間をs過程が与えることにより、89Y はその存在量がより多くなっていると考えられている[25][注 2]。そのような遅い過程では、質量数(A = 陽子 + 中性子)が90、138、208付近のものが異常に安定な原子核として選択的に生成する傾向がある。このとき中性子数はそれぞれ50、82、126となる[25][注 3]。このような質量数を持つ同位体においては電子放出はあまり起こらなくなり、結果として存在量が多くなる[4]。89Y の質量数は90に近く、中性子数は50である。
イットリウムには少なくとも32種の人工放射性同位体が確認されていて、質量数は76から108にわたる[26]。最も不安定な同位体は半減期 150 ns の 106Y であり、その次に半減期 200 ns の 76Y がある。最も安定なものは半減期106.626日の 88Y である[26]。また、91Y、87Y、90Yの半減期はそれぞれ58.51日、79.8時間、64時間である。その他の同位体の半減期は全て1日以内であり、そのほとんどが1時間以内である[26]。
質量数88以下のイットリウム同位体は、主にβ+崩壊(陽子 → 中性子)によりストロンチウム (Z = 38) の同位体になる[26]。質量数90以上のイットリウム同位体は、主にβ-崩壊(中性子 → 陽子)によりジルコニウム (Z = 40) の同位体になる[26]。また、質量数97以上の同位体ではβ遅延中性子放出過程による崩壊が一部起こることも知られている[28]。
質量数78から102の準安定同位体(励起状態の同位体)が少なくとも20個知られている[26][注 4]。複数の励起状態が80Y と 97Y で確認されている[26]。ほとんどのイットリウム同位体核は基底状態より励起状態で不安定であると予想されるが、78mY、84mY、85mY、96mY、98m1Y、100mY、102mY は基底状態のものより長い半減期を持つ。その理由は、これらの同位体は核異性体転移よりもβ崩壊によって崩壊するためである[28]。
1787年、軍隊中尉のかたわら化学者をしていたカール・アクセル・アレニウスは、スウェーデンの村イッテルビーの古い石切り場で、黒色の重い岩石を発見した。彼はこれを、当時見つかったばかりのタングステンが含まれる未知の鉱物だと考え[29]、これを「イッテルバイト」と名づけた[注 5]。さらなる分析のため、その試料が多数の化学者に送られた[3]。
1789年、ヨハン・ガドリンはオーボ大学 (University of Åbo) でアレニウスの試料から新たな酸化物を発見し(当時は「アース」と呼ばれた)、1794年、分析を完了してその成果を発表した[30]。1797年、アンデルス・エーケベリはこれを確認し、新たな酸化物を「イットリア (yttria)」と名づけた[31]。数十年後、アントワーヌ・ラヴォアジエによる元素の近代的定義により、アースは元素へと還元することができると考えられるようになり、新たなアースの発見はそれに含まれる新たな元素の発見と同義であることが認識された。そしてイットリアには「イットリウム」が含まれると考えられた[注 6]。
1843年、カール・グスタフ・モサンデルはイットリアから3種の酸化物、すなわち白色の酸化イットリウム(III)、黄色の酸化テルビウム(III,IV)(当時これは「エルビア」と呼ばれていた)、薔薇色の酸化エルビウム(これは「テルビア」と呼ばれていた)を発見した[32]。四つ目の酸化物、酸化イッテルビウムは1878年、ジャン・マリニャックにより単離された[33]。その後、新たな元素が単体としてこれらの酸化物から単離され、採石場のあったイッテルビー村にちなんで、それぞれイッテルビウム、テルビウム、エルビウムと命名された[34]。さらに数十年後、7種の新たな金属が「ガドリンのイットリア」から発見された[3]。イットリアは単一組成の酸化物ではなく鉱物であることがわかったため、マルティン・ハインリヒ・クラプロートはガドリンの名をとって、これをガドリナイトと改名した[3]。
金属イットリウムは1828年、フリードリヒ・ヴェーラーが無水塩化イットリウムとカリウムを加熱することによって初めて単離した[35][36]。
元素記号には1920年代初頭まで Yt が使われていたが、のちに Y が使われるようになった[37]。
1987年に、イットリウム・バリウム・銅酸化物(英語版)が高温超電導を示すことが発見された。この性質を示す物質としては2番目に見つかったもので[38]、窒素の沸点以上で超電導を示す物質としては、初めて見つかったものである[注 7]。
イットリウムはほとんどの希土類鉱石に含まれ[8]、いくつかのウラン鉱石にも含まれるが、単体としては自然界には存在しない[39]。地殻の約31 ppmがイットリウムであり、28番目に多く存在する元素である。その量は銀の400倍に相当する[40]。土壌からは10–150 ppmの濃度(乾燥質量の平均で23 ppm)で見つかり、海水中には9 pptほど含まれている[40]。アポロ計画で採集された月の石は、比較的高い濃度でイットリウムを含んでいた[34]。
生物的役割は知られていないものの大部分の生物に含まれ、ヒトでは肝臓、腎臓、脾臓、肺、骨に濃縮する傾向がある。ヒトの体には全体で普通0.5 mg程度のイットリウムがあり、母乳には4 ppmほど含まれている[41]。新鮮な野菜や作物に20–100 ppm程度の濃度で存在し、キャベツに最も多く含まれる[41]。最も高濃度なのは樹木の種子であり、700 ppm以上が含まれる[41]。
イットリウムとランタノイド元素はよく似ていることから、ともに同じような過程を経て鉱石中に濃縮される。そのため、イットリウムはランタノイド元素と同じ鉱石、すなわち希土類鉱物中にみられる。鉱石中での軽希土と重希土の分離はわずかであって、完全なものとはならない。原子量は小さいが、イットリウムは重希土の中で濃縮される[42][43]。
希土類元素の主な産出源として以下の四つが知られる[44]が、モナザイトやバストネサイトなどの軽希土鉱物においては副生成物として少量のイットリウムが得られるのみであり、主要なイットリウム源はもっぱら重希土鉱物のゼノタイムに依る[45]。
イットリウムを他の希土類から分離するのは困難であり、古典的な分離法である分別沈殿法では高純度なイットリウム化合物を得ることは事実上不可能である[49]。イットリウムを分離するための前処理として、鉱石中に含まれる希土類のリン酸塩を熱濃硫酸に溶解させて希土類溶液を得る硫酸法が用いられている。この希土類溶液にシュウ酸を加えて重希土類をシュウ酸塩として沈降させ軽希土類と分離し、これを酸素中で加熱乾燥させることで酸化イットリウム(III)を60 %ほど含有したイットリウム濃縮物が得られる。得られた濃縮物は塩酸に溶解された後、イオン交換クロマトグラフィーや溶媒抽出法によって各元素に分けられる。イオン交換法におけるキレート剤としては通常エチレンジアミン四酢酸 (EDTA) にあらかじめ銅(II)イオンや亜鉛(II)イオンなどの2価の金属イオンを吸着させたものが利用される。希土類元素と EDTA との結合力はそれぞれの元素によって異なるため、イオン交換塔に希土類溶液を通すと EDTA との結合力が強い順に希土類の混合物が分離され、イットリウムはジスプロシウムとテルビウムの間で得られる。この分離プロセスから明白なように、イオン交換膜法はバッチ処理を前提としているため大量生産には向いていないが、様々な組成の溶液を同一プロセスで処理できる利点がある。溶媒抽出法において利用される抽出剤としては、トリブチルリン酸やイソデカン酸などがある。イットリウムの抽出序列はランタノイド元素のほぼ中央にあり、また抽出序列の隣り合うランタノイド元素との分離効率がそれほど高くないため、抽出序列の異なる2種類の抽出剤を用いて2段階に分けて抽出される。溶媒抽出法は連続処理であるため大量生産に向いており、工業生産法としては溶媒抽出法が主流になっている[50]。さらにフッ化水素と反応させると、フッ化イットリウムが得られる[51]。
世界の年間の酸化イットリウム(III)生産量は、2001年に600トンに達した。また、世界の保有量は推計で900万トンに上る[40]。毎年わずか数トンの金属イットリウムがフッ化イットリウムを酸化することにより生産され、カルシウムマグネシウム合金の金属スポンジに利用される。1,600 °C 以上以上に加熱を行うアーク炉内でイットリウムを融解させることができる[40][51]。
ユウロピウムイオン (Eu3+) をドープした酸化イットリウム(III) (Y2O3)、オルトバナジン酸イットリウム (YVO4)、二酸化硫化イットリウム(III) (Y2O2S) は蛍光体として、カラーテレビのブラウン管の赤色を出すために使われる[4][5][注 8]。イットリウムが電子銃からのエネルギーを集め、それを蛍光体へ渡すと、ユウロピウムから赤色の光が放出される[52]。Eu3+ のほかテルビウム (Tb3+) もドーパントとして用いられ、これは緑色の蛍光を発する。
イットリウム化合物はエチレンを重合してポリエチレンを製造する際の触媒となる[4]。金属としては高性能点火プラグの電極に使われる[53]。また、プロパンを燃料とするランタンのガスマントルの製造に、放射性物質であるトリウムの代替として使われる[54]。
研究中の用途として、固体電極や自動車排気ガスの酸素センサーとして期待される、イットリウムで安定化したジルコニアが挙げられる[5]。
イットリウムはさまざまな人工ガーネット(英語版)の製造に使われる[55]。イットリウム・鉄・ガーネット (Y3Fe5O12, YIG) は高性能マイクロ波電子フィルタである[4]。イットリウム、鉄、アルミニウム、ガドリニウムのガーネット(Y3(Fe,Al)5O12、Y3(Fe,Ga)5O12 など)は磁性を持つ[4]。YIG を音響エネルギー発信機や変換器に用ると高効率のものが得られる[56]。イットリウム・アルミニウム・ガーネット Y3A5O12 (YAG) はモース硬度8.5であり、模造ダイヤとして宝石に使われる[4]。セリウムをドープしたイットリウム・アルミニウム・ガーネット (YAG:Ce) の結晶は、白色LEDの蛍光体に使われる[57][58][59]。
YAG、酸化イットリウム(III)、テトラフルオロイットリウム(III)酸リチウム (LiYF4)、オルトバナジン酸イットリウム(III) (YVO4) に、ネオジム、エルビウム、イッテルビウムなどをドープしたものは、近赤外線レーザーに使われる[60][61]。YAG レーザーは高出力で作動させることができ、金属の切削に使われる[46]。ドープ済み YAG 単結晶は通常チョクラルスキー法で生産される[62]。
クロム、モリブデン、チタン、ジルコニウムに微量のイットリウム (0.1–0.2 %) を添加すると、その粒径が小さくなる[63]。アルミニウムやマグネシウムの合金に添加すると、強度が増加する[4]。一般に合金にイットリウムを添加すると、結晶の緻密化によって被加工性が向上し、強固な酸化被膜の形成によって高温条件下での再結晶や酸化、酸による腐食が起こりにくくなる[52][64]。このような合金への添加剤としての用途においては高純度であることを必要とされないことも多く、イットリウムの単離工程における中間生成物であるイットリウム濃縮物をそのまま還元して用いる場合もある[65]。コバルト、鉄との合金は永久磁石として利用される。
イットリウムはバナジウムや非鉄金属を脱酸素するのに使われる[4]。酸化イットリウム(III)は、宝石である立方晶のジルコニアを安定化させる[66]。これは、純粋なジルコニアでは温度変化によって結晶系が単斜晶系から正方晶系へと変化して割れを生じるが、イットリウムを添加することで温度変化に関わらず常に正方晶系となるため熱耐性が得られることによる[67]。
延性に富むダクタイル鋳鉄の製造用の球状化剤として、イットリウムが研究されている[4]。酸化イットリウム(III)は高い融点を持ち、衝撃抵抗と低い熱膨張率を提供するので、セラミックやガラスの製造に使われる[4]。これはたとえば、多孔性窒化ケイ素の生産における焼結添加物や、カメラレンズに使われる[68][40]。また、物質科学研究などに使われるイットリウム化合物を合成するための原料としても使われる。
放射性同位体であるイットリウム90はイットリウム90-dota-tyr3-オクトレオチド(英語版)やイットリウム90イブリツモマブ・チウキセタン(英語版)などの医薬品に含まれている。これらの薬は悪性リンパ腫、白血病、子宮、結腸直腸、骨などの癌の治療に用いられている[41]。これらはモノクローナル抗体に付着し、癌細胞へと結合して、これをイットリウム90の発するβ線で破壊する[69]。
イットリウム90でできた針は、メスよりも正確に切断を行うことができるので、痛覚を伝達する脊髄の神経を切り離すのに使われる[29]。イットリウム90は、関節リウマチなどにより膝などに炎症を起こしている患者の治療のため、放射線滑膜切除術を行う際にも使われる[70]。
ロボットを補助的に利用し、側枝神経や組織への損傷を減少する目的で行われた、イヌでの前立腺全摘除術実験に、ネオジムをドープした YAG レーザーが用いられた[71]。一方、エルビウムがドープされたものは、美容外科において皮膚再生(スキン・リサーフェイシング)への利用が検討されている[5]。
イットリウム・バリウム・銅酸化物 (YBa2Cu3O7, YBCO, 1-2-3) は1987年にアラバマ大学とヒューストン大学で開発された超伝導体である[38]。この超電導体は約93 Kでその性質を現すが、液体窒素の沸点77.1 Kより高いという点で有用である[38]。液体窒素は液体ヘリウムより安価なので、冷却のコストを大幅に減らすことができるためである。
イットリウム・バリウム・銅酸化物は化学式 YBa2Cu3O7−d で表されるが、超電導性を示すには d は0.7より小さくなければならない。その理由はわかっていないが、空孔が結晶中の特定の場所(平面状または鎖状の銅酸化物)にしか発生せず、銅固有の酸化数を上げることが知られていて、これが超電導性に関係しているのだろうとされている。
1957年にBCS理論が発表されてから、低温超伝導性の理論はよく理解されるようになった。基礎となるのは結晶中の2電子間の相互作用の独自性である。しかし、BCS理論では高温超電導性を説明できず、詳細な機構は明らかになっていない。わかっているのは、超電導性を起こすには銅酸化物の組成を正確に制御する必要があるということである[72] 。
YBCO は、黒緑色、多結晶、多相の無機物で、ペロブスカイト構造を基にしている。研究者はペロブスカイトについて、実用的な高温超電導体の開発を目指している[46]。
水溶性イットリウム化合物はわずかに有害であると考えられているが、不溶性化合物は無害である[41]。動物実験により、イットリウムやその化合物は、種類によって程度は異なるが、肺や肝臓に損傷を与えることが示されている。ラットでは、クエン酸イットリウムの吸入により肺水腫や呼吸困難が生じ、塩化イットリウム(III)では肝臓水種、胸水、肺の充血が生じた[6]。
ヒトがイットリウム化合物に曝されると肺疾患の原因となる可能性がある[6]。バナジン酸イットリウムユウロピウムの粉塵に曝された労働者の目、肌、呼吸器に軽度の炎症が見つかった例があるが、これはイットリウムではなくバナジウムの影響による可能性もある[6]。イットリウム化合物に急激に曝されると、息切れ、咳、胸痛、チアノーゼが起こることがある[6]。アメリカ国立労働安全衛生研究所 (NIOSH) では、許容曝露濃度 (PEL) は 1 mg/m3、生命と健康に対する危険性 (IDLH) は500 mg/m3 を推奨している[73]。イットリウムの粉塵は引火性である[6]。
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