テロメラーゼ

テロメラーゼ (: telomerase) は、真核生物染色体末端(テロメア)の特異的反復配列を伸長させる酵素1984年カリフォルニア大学キャロル・W・グライダーエリザベス・H・ブラックバーンによりテトラヒメナから初めて単離された。

テロメラーゼは、真核細胞染色体末端に見つかるテロメア領域DNA鎖の3'末端へ、特定のDNA配列リピートを付加する酵素である。テロメアは凝縮したDNAを含み、染色体に安定性を与える。この酵素は、各複製サイクルの後短くなるテロメアを延長するときにテンプレートとして使われる自身のRNA分子を、保持する逆転写酵素である。

テロメア(テロメラーゼ)機構による短縮補填の存在は1973年にソビエトの生物学者アレクセイ・オロヴニコフ (Alexey Olovnikovによって最初に予測され[1]、彼はまた老化に関するテロメア仮説およびがんとテロメアの関連について示唆を行った。

テロメラーゼは、1985年にキャロル・W・グライダーとエリザベス・H・ブラックバーンにより、繊毛を持つテトラヒメナにおいて発見された[2]

グライダーとブラックバーンはジャック・W・ショスタクと共に、その発見で2009年ノーベル生理学・医学賞を受賞した[3]。彼らの研究内容には、テロメラーゼがレトロウイルス起源とする例証が含まれている[4]

概要

構造

テロメラーゼはテロメア配列の鋳型となるRNA逆転写酵素、その他の制御ユニットからなる複合体である。RNA要素はTERC (Telomere RNA Component)、逆転写酵素はTERT (Telomere Reverse Transcriptase) と呼ばれる。このRNAの長さはテトラヒメナで159塩基長、哺乳類で450塩基長、出芽酵母で1.3塩基長と様々である。逆転写酵素の活性部位はRNA型トランスポゾンがコードするそれと相同性がある。過剰発現の実験から、テロメラーゼ活性自体はRNAと逆転写酵素の二つの構成因子で十分であることがわかっているが、テロメラーゼは生体内において巨大な複合体 (1MDa以上) を形成しており、正常な機能には他の構成因子も必要である。テロメラーゼ自体もテロメアの維持に機能すると考えられている。

ヒト・テロメラーゼのタンパク質構成はスコット・コーエン(オーストラリア Children's Medical Research)によって2007年に同定された[5]。それは、ヒトTERT (Telomere Reverse Transcriptase、TERC (Telomere RNA Component(別表記 hTR)、ジスケリン (Dyskerinそれぞれ2分子から構成されている[5]。 この酵素の2種類のタンパク質サブユニットゲノム中の2つの異なる遺伝子にコードされている。TERT遺伝子のコード領域は3396bpであり、1131アミノ酸タンパク質翻訳される。TERTポリペプチドは、非翻訳RNAのままであるTERC(451塩基長)と一緒に折りたたまれる。TERTは、一本鎖テロメア反復配列の付加のため染色体の周囲に覆うことができるような『二また手袋状』構造をとる。

TERTは逆転写酵素であり、テンプレートとして一本鎖RNAを用いて一本鎖DNAを作成するクラスの酵素である。(TERT特異的ではなく、ウイルスから分離されるものも)このクラスの酵素は、科学者によって逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)の分子生物学的反応で利用されており、テンプレートとしてRNAを用いて標的塩基配列のDNA複製物を作成することができる。以上述べたようにTERTはその傍にそれ自身が利用するテンプレートを含むTERCを保持している。

コクヌストモドキ (Tribolium castaneumテロメラーゼTERTの触媒サブユニットの高分解能度タンパク質構造の解読が、2008年にWistar Institute in PhiladelphiaのEmmanuel Skordalakesと彼のチームによって行われた[6]。その構造は4つの保存されたドメイン(TRBD[7], fingers, palm, thumb)からなるタンパク質であり、レトロウイルス逆転写酵素・ウイルスRNAポリメラーゼバクテリオファージファミリーBDNAポリメラーゼと共通の特徴を持つ環状構造に組み立てられていた。

機能

TERCを用いて、TERTは6ヌクレオチド反復配列5'-TTAGGG(全脊椎動物共通、他の生物では異なる)を染色体の 3'鎖に付加することができる。これらのTTAGGGリピートは(パートナーを結びつけているそれらのいろいろなタンパク質と共に)テロメアと呼ばれている。TERCのテンプレート領域は、3'-CAAUCCCAAUC-5'である。

このようにテロメラーゼは、染色体上のテロメア配列の末端へ、テンプレートの最初の数ヌクレオチドを結合させることができる。また離脱した新しいテロメア反復配列(5'-GGTTAG-3')は、テンプレートへの新しいテロメア3'末端を再編成し、そのプロセスを反復する。(この伸長がなぜ必要かという説明は、Telomere shorteningを参照)

発現

この酵素はヒトでは通常の体細胞には見られず、生殖細胞で発現している。ただし体細胞でも、細胞分裂を繰り返して娘細胞を供給する幹細胞では若干の活性がみられる。卵巣精巣などの生殖細胞では恒常的に発現している。生殖細胞は生物個体を越えて連綿と引き継がれていくものであり、ある意味では不死細胞ということができ、この性質にテロメラーゼが関わっている。またガン細胞でも大量に存在しており、ガン細胞の不死化の原因の一つと考えられている。一方、マウスでは体細胞でもテロメラーゼの発現がある。

テロメラーゼは細胞周期のS期(DNA合成期)にテロメアに誘導されて機能する。出芽酵母の研究では、テロメラーゼは細胞内で最も短いテロメアから優先的に伸長させていくことがわかりつつあり、長すぎるテロメアには抑制的に働く機構が見いだされている。

テロメアの分子機構に関する実験には均一な細胞群を用いることが求められるため、主に出芽酵母やテトラヒメナといった単細胞生物、および哺乳類では培養細胞を用いて研究が行われている。

脚注

  1. ^ Olovnikov AM (1973 Sep 14). “A theory of marginotomy. The incomplete copying of template margin in enzymic synthesis of polynucleotides and biological significance of the phenomenon”. J Theor Biol. 41 (1): 181-90. PMID 4754905. 
  2. ^ Greider, C.W. & Blackburn, E.H. (1985). “Identification of a specific telomere terminal transferase activity in Tetrahymena extracts”. Cell 43 (2 Pt 1): 405–413. doi:10.1016/0092-8674(85)90170-9. PMID 3907856. 
  3. ^ [1]
  4. ^ Witzany, G. (2008). “The Viral Origins of Telomeres and Telomerases and their Important Role in Eukaryogenesis and Genome Maintenance”. Biosemiotics 1: 191–206. doi:10.1007/s12304-008-9018-0. 
  5. ^ a b Cohen S, Graham M, Lovrecz G, Bache N, Robinson P, Reddel R (2007). “Protein composition of catalytically active human telomerase from immortal cells”. Science 315 (5820): 1850–3. doi:10.1126/science.1138596. PMID 17395830. 
  6. ^ Gillis, A. J.; Schuller, A. P. & Skordalakes, E. (2008), “Structure of the Tribolium castaneum telomerase catalytic subunit TERT”, Nature 455 (7213): 633–7, doi:10.1038/nature07283, PMID 18758444 
  7. ^ Rouda S, Skordalakes E. (2007), “Structure of the RNA-binding domain of telomerase: implications for RNA recognition and binding”, Structure 15 (11): 1403-12, PMID 17997966 

関連項目

外部リンク