ニーマン・ピック病

ニーマン・ピック病
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
内分泌科
ICD-10 E75.2 (ILDS E75.230)
ICD-9-CM 272.7
OMIM 257200 257220 601015 607608 607616 607623 607625
DiseasesDB 9016 34341 33390
MedlinePlus 001207
eMedicine derm/699
Patient UK ニーマン・ピック病
MeSH D009542
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ニーマン・ピック病(ニーマン・ピックびょう、Niemann-Pick disease)は、先天的な遺伝子の変異によって引き起こされる酵素の異常によって、本来分解されるはずの不溶性の代謝物が細胞内に蓄積する先天性代謝異常症である[1]常染色体劣性遺伝の遺伝形式をとる[2]

分類によって生化学的・分子生物学的位置づけが大きく異なる病気であり、ニーマン・ピック病A型およびB型は、細胞内の酸性スフィンゴミエリナーゼの異常によって起こるスフィンゴミエリンの蓄積が原因とされ、内臓腫大等の症状を生じる[3]。ニーマン・ピック病C型は脂肪輸送の欠陥によって、細胞内にコレステロールが蓄積し、小児期に運動失調やその他の神経症状を生じる[3]

概要

常染色体劣性遺伝(両親ともに遺伝的保因者の場合)

常染色体劣性遺伝の遺伝形式をとる先天性遺伝子疾患である[2]

細胞小器官の一つであるリソソーム(ライソゾーム)は、体内のさまざまな物質を加水分解酵素で分解する役割を持つ[4]。この酵素(リソソーム酵素と総称される)に先天的な遺伝子の変異が生じると、酵素によって本来分解されるべき代謝物が分解されず、細胞内に蓄積してしまい異常が生じる。このような疾患をライソゾーム病と呼び[4]、ニーマン・ピック病もこの一種である。

変異する遺伝子によって大きく二つに分類され、SMPD1と呼ばれる遺伝子の変異によって生じるものをニーマン・ピック病A型,B型[5]、NPCと呼ばれる遺伝子の変異で生じるものをニーマン・ピック病C型と呼ぶ[6]。蓄積する代謝物はA型,B型とC型とでやや異なり、A型,B型ではスフィンゴリピドの一種であるスフィンゴミエリンが、C型ではコレステロールがおもに蓄積する[7]。ニーマン・ピック病の他にも、スフィンゴミエリンとは異なるスフィンゴリピドが蓄積するライソゾーム病は複数あり、これらを総称してスフィンゴリピドーシスと呼ぶ。[8]

臨床症状としておもに脾腫が生じ、一部では神経症状を認める。また、ニーマン・ピック細胞とよばれる泡沫状の空胞を有する細胞が特徴[9]予後は分類によって大きく異なる。

歴史

  • 1914年 - Albert Niemannが、ユダヤ人幼児の症状が急速に進むゴーシェ病と似た症例を報告する[5]
  • 1929年 - Ludwig Pickが、Albert Niemannの発見した症例はゴーシェ病とは組織学的に異なると証明する[10]。ニーマン・ピック病と命名される[11]
  • 1934年 - クレンク博士が蓄積物質をスフィンゴミエリンと同定[5]
  • 1961年 - Crockerによって、A型からD型までの4つに分類される[12]
  • 1966年 - ブラディ博士が患者組織で、スフィンゴミエリンを分解する酵素である酸性スフィンゴミエリナーゼが欠損していることを示す[5]
  • 1967年 - LynnとTerryによって、成人のニーマン・ピック病がE型と分類される[13]
  • 1978年 - Schneiderらによって神経症状が異なる患者が報告され、F型とされる[13]
  • 1991年 - Levranらによって、A型およびB型にSMPD1の変異が発見される[14][15]
  • 1992年 - 秋田大学高橋勉らによって、A型およびB型はSMPD1の変異により生じると報告される[14][15][16]
  • 2001年 - Millatらによって、NPC1の変異によって脾腫大が起こることが報告される。[17]
  • 2004年 - Josephsらによって、NPC1の変異によってC型が生じると報告される。[17]
  • 2009年 - EUにおいて、ニーマン・ピック病C型の治療薬ミグルスタットが承認される[18]
  • 2012年 - 日本において、C型治療薬ミグルスタットが承認される。[19]

分類

A~F型に分類される[2]が、D~F型は極めてまれであり、D型はC型としてまとめられることが多い[20]

おもな型

  • A型 (急性神経型) - スフィンゴミエリナーゼ酵素活性が5%以下の重症型[5]。SMPD1の変異が原因[21]
  • B型 (慢性非神経型) - スフィンゴミエリナーゼ酵素活性は5%以上で、神経症状はみられないのが特徴[7]。SMPD1の変異が原因[21]
  • C型 (慢性神経型) - コレステロールの蓄積がみられ、NPC遺伝子の変異が原因。
    • C1型 - NPC1の変異が原因の型[22]
    • C2型 - NPC2の変異が原因の型[23]

極めてまれな型

  • D型 - カナダノバスコシア州で特有の型として報告されたが、通常C1型として論じられる[20]
  • E型 - 思春期以降に発症するものが分類される[24]が、明確な定義はない[14]
  • F型 - 1978年に報告された症状が他のものと少し異なる型だが、明確な定義はない[14]

原因・病態

スフィンゴミエリン
脾臓において空胞が形成された泡沫細胞(ニーマン・ピック細胞)

A型およびB型

A型およびB型は、神経組織細胞膜を構成するリン脂質であるスフィンゴミエリンが蓄積することによって生じる[3]

神経線維は、細胞体と軸索によって構成されている。軸索にはミエリンと呼ばれる絶縁性のリン脂質が存在しており、これによってヒトは中枢神経系などを保護[7]し、伝導速度を確保している。このミエリンを構成するのがスフィンゴミエリンであり、その量のバランスを合成経路と代謝経路によって保っている。スフィンゴミエリンの代謝経路では、細胞内のリソソームに存在する加水分解酵素の一つであるスフィンゴミエリナーゼが重要な役割を果たしている。スフィンゴミエリナーゼはホスホリパーゼCの一種であり、スフィンゴミエリンの一部を除去しセラミドへと分解する[7]

ニーマン・ピック病A型,B型の原因は、遺伝子異常によってスフィンゴミエリナーゼが欠損することである[3]。代謝されずに残ったスフィンゴミエリンが、神経細胞や除去しようと集まったマクロファージに蓄積する。集まったマクロファージは脂肪複合体の小滴や粒子であふれ、細胞質内に細かい空胞や泡沫が形成される[3]。このような泡沫が形成されたを細胞をニーマン・ピック細胞と呼ぶ[9]

また、スフィンゴミエリンが分解されないため、分解産物であるセラミドも生じない。セラミドとセラミドをさらに分解してできるスフィンゴシンは、アポトーシス促進作用がある[7]。そのため、ニーマン・ピック病の患者にはアポトーシス耐性をもつ細胞も生じる。

原因遺伝子はスフィンゴミエリナーゼから、SMPD1と名付けられている[21]

C型

C型は、A型およびB型とは病態が異なるとされる。肝臓や脾臓においてスフィンゴミエリンのほかに、コレステロールやその他の糖脂質などが蓄積し、脳ではとくにGM2,GM3ガングリオシドと呼ばれる糖脂質の蓄積がみられる[25]

C型の原因を述べる上で重要なのがコレステロールの代謝経路である。体内に吸収されたコレステロールは、さまざまな種類のリポタンパク質とよばれる状態で存在する[26]。リポタンパク質のうちコレステロールの占める割合の大きいLDL(いわゆる悪玉コレステロール)は、LDL受容体を介して肝臓などの細胞中に吸収される。この吸収はエンドサイトーシスとよばれる方法で行われ、その際吸収されたLDLはエンドソームという小胞を形成し、この小胞はリソソーム内の酵素によって分解される[27]。このとき、ニーマン・ピック病C型は遺伝子異常によってリソソームからコレステロールを排出できない[27]ため、細胞内に蓄積する。

原因遺伝子はNPC1およびNPC2と名付けられており、多くの症例はNPC1の変異が占めている[3]。NPC1は細胞内コレステロール輸送の重要分子と考えられているが、病態への関与のメカニズムには不明な点が多い[28]

疫学

発症に男女差はない[2]。日本では、ライソゾーム病の一つとして特定疾患(難病)に指定されている[29]ため、一定の認定基準のもとで治療費は公費で負担される[30]

頻度

A型およびB型の発症率はおおむね10万人に1人。すべての人種に見られるが、A型は特に東欧系ユダヤ人に多いとされる[7]。その割合はおおむね4万人に1人である[20]

C型は、欧米では12万人に1人の頻度と考えられており、日本人における頻度は明確ではないが、欧米とほぼ同じと考えられている[6]

症状

脾臓肝臓骨髄リンパ節などが最も強く影響を受け、中でも脾臓が腫大する脾腫が特徴的である。これは、スフィンゴミエリン貪食したマクロファージの影響である[3]。その他、皮膚の異常としては顔面の黄色調変化のほかに、多汗、黄色腫、紫斑、カフェオレ斑[2]などさまざまである。

A型およびB型

眼底のcherry-red spot(写真はテイ・サックス病のもの)

発症要因が同じであるため、A型とB型は症状が似ているが、より重症で急速に進むのがA型である。そのためA型は急性神経型と呼ばれる[9]乳児期早期から脾腫が著明になり[5]、さらに骨髄や神経節を含むすべての中枢神経系が影響を受けるため、重篤な神経学的異常が生じる[3]。神経症状としては、筋力低下、哺乳障害嘔吐が出現。さらに生後6ヶ月以降、運動発達遅滞が明らかとなり、進行すると筋緊張によって生じる痙縮固縮が著明になる[5]。眼底にはcherry-red spotと呼ばれる黄斑が赤く見える症状が現れる。通常、生後3年程度で死に至る[9]

B型では内臓腫大や肝硬変をきたすが、神経学的症状は出現しない[3]。1歳から2歳ごろに肝脾腫で発見され、肝硬変を呈するが、成年期まで生存することがある[9]

C型

A型やB型とは異なり、あらゆる年齢で発症する。慢性神経型と呼ばれ[9]脾腫のほかに、嚥下障害、笑うと脱力するカタプレキシー発達の遅れなどの中枢神経障害が現れる。発症時期によって、周産期型、乳児早期型、乳児後期型、若年型、思春期・成人型に分けられ、それぞれ顕著な症状が異なる[31]

周産期型では、胆汁うっ滞や黄疸で発見され、通常は2~4ヵ月で改善するが、約10%の症例で肝不全に移行し6ヵ月までに死亡する例もある。また肝脾腫とともに肺の病気によって呼吸不全に至る例もある[31]。乳児早期・後期型では肝脾腫のほかに、発達の遅れ運動障害(歩行障害など)が生じる[31]。若年型では脾腫は認めないことが多いが、書字困難や集中力低下などのほか、運動障害による歩行の不安定、嚥下障害などが現れる。痙性麻痺を合併することもある[31]。思春期・成人型では、妄想幻視幻聴などの精神症状や攻撃性を示すなどの行動異常がみられる。運動障害としては意図しない筋収縮(ジストニア)、舞踏運動パーキンソン病と似た症状(パーキンソン症候群)を認める[31]

検査

骨髄検査

もっとも一般的な検査は骨髄穿刺である[32]が、患者への負担は大きい。脾腫などの特徴的な症状がみられ、ニーマン・ピック病が疑われる場合に行う。

小児では、骨髄穿刺針を骨盤前腸骨稜または後腸骨棘に穿刺し、骨髄液を吸入採取する[33]。採取後、骨髄液を薄く広げて標本にした骨髄塗抹標本において、前述の泡沫細胞(ニーマン・ピック細胞)が観察される[34]

その他の検査

培養皮膚の線維芽細胞を用いた検査も存在する[5][31]。A型では酸性スフィンゴミエリナーゼの酵素検査[5]、C型ではフィリピン染色という染色法によりコレステロールの蓄積を確認する[35]

A型では、眼底検査において約半数に前述のcherry-red spotを認めることができる[5]。C型では骨髄検査および遺伝子検査以外の臨床検査血液検査など)での特徴的な異常は確認できない[31]

診断

A型では確定診断として、前述のように培養皮膚の線維芽細胞における酸性スフィンゴミエリナーゼの酵素診断を行う。原因遺伝子のSMPD1の変異の解析でも診断が可能である[5]。C型の確定診断は、原因遺伝子のNPC1あるいはNPC2の変異同定によって行う[31]

そのほかC型には、医師や看護師等の医療関係者による使用を前提とした[36]診断の補助のためのウェブサイトが存在する[1]。特有の症状の有無を入力していくと、ニーマン・ピック病C型に該当する可能性を予測スコアとして表示する[37]。ただし、4歳以下で神経症状の少ない例では誤診する可能性があることに注意して使用する必要がある[31]

出生前診断

A、B型およびC型において、遺伝子検査等による出生前診断が可能である。遺伝子解析に加え、A型・B型では酵素測定[3]、C型では羊水中に含まれる羊水細胞や絨毛細胞におけるコレステロール蓄積の測定を行う[35]

治療・予後

A型およびB型と、C型とでは原因が異なるため、治療予後ともに異なる。

A型およびB型

A型は著しく予後が悪く、生後3年程度で死亡する。B型では症状の程度によって成年期まで生存することもある[9]

治療法として骨髄移植がある。A型では肝脾腫の改善などがみられるが中枢神経には無効であり[5]、死亡が避けられるわけではない[9]。B型でも肝脾腫大の縮小や肝臓内のスフィンゴミエリンの減少などが観察されているが、骨髄移植の有効性は明確に立証されていない[5]。このほかB型に対する治療法として、異常な酵素の代わりに正常な酵素を外から補充する酸素補充療法が欧米などで試験中である[5]。そのほかの治療は症状を緩和するための対処療法に限られ[38]、現在のところ有効な根治療法は存在しない。

C型

C型の治療薬として一般名「ミグルスタット」(商品名「ブレザーベス」)が開発され、複数の国で承認されている[19]。ミグルスタットは、C型において蓄積する代謝物の一つであるグルコシルセラミドの生成を抑制する。これによって、神経症状発現の遅延や、生存期間の延長、におけるガングリオシド蓄積の抑制などの効果があるとされる[39]。神経症状発症前の使用で発症を予防できる可能性も報告されている[25]。ただし、腸内にガスがたまる鼓腸や、下痢、体重増加不良、振戦などの副作用もあり、さらに肝脾腫などへの効果はないとされる[25]

その他、対処療法として、嚥下障害が認められる場合の胃瘻気管切開や、眼球乾燥を防ぐ点眼なども考慮される[25]

関連項目

出典

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